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帰ってきたyokeのブログ。JR東海運用情報の更新情報も兼ねています。
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2011年06月04日

ATS-PT講座の第6回目、今回は消去用地上子を取り上げます。前回の講座で解説したロング地上子・直下地上子があれば、パターン速度照査を行い、停止信号の手前で確実に列車を停めることができます。しかし、この2つの地上子だけでは円滑な運転ができないことがあります。まずは、その状況を見てみましょう。

ロング地上子・直下地上子だけだとどうなるか

停止信号を現示した場内信号機に列車が近づいて来ました。停止信号の手前600mにあるロング地上子が、停止位置までの距離を車上装置に送り、速度パターンを作ります。この講座をよく見てくれている方にはおなじみの図です。

ロング地上子でパターン発生

停止信号の前には、注意信号が出ていますので、列車は45km/hまたは55km/hまでに速度を落としています。このまま信号が変わらなければ、50m手前で停まるのが所定のルールです(上図の運転曲線)。

さて、ここで場内信号機が停止から進行、つまり赤から青に変化しました(下図)。信号が青になったわけですから、速度制限はもうありません。速度を上げても構わない規則ですが、ATS-Pはそうはいきません。そうです。パターンが残っているので加速できないのです。うっかり加速すると車上装置に残っているパターンに当たって非常ブレーキがかかってしまいます(下図(1)の運転曲線)。

途中で信号が変わってもパターンが残っているので加速できない

直下地上子を通過するまで、パターンは更新されません。加速できないどころか、停止位置に近づくほどパターンは厳しくなり、信号が青なのに逆に速度を落とさなければならない、こんな理不尽なことになってしまうんですね(上図(2)の運転曲線)。

途中でパターンを更新してくれる消去用地上子

そこで登場するのが消去用地上子。この地上子は、信号の上位変化に合わせて文字どおり余計なパターンを消去(正確には更新)してくれるものです。ATS-PTの場合、信号機から210m手前に設置するのが基本です。下の図のように、途中で変わった信号機の情報を車上装置に送り、パターンを更新してます。これにより再加速を可能にしたり、余計なパターンで減速を強いられることから解放されるわけですね。

消去用地上子はパターンを更新し、再加速を可能にする

ATS-PTの消去用地上子配置

上の図では210mの消去用地上子しかありませんが、210mを過ぎてから信号が上位変化した場合は役に立ちません。もっとたくさんの消去用地上子があれば、運転取り扱いを円滑にします。列車密度の高い首都圏のATS-Pは、場内信号機には5個(50m,85m,130m,180m,280m)の消去用地上子が、閉塞信号機には2個(85m,180m)の消去用地上子が設置されています。

しかし、ATS-PTはコストを抑えた廉価版です。そこまで多数の消去用地上子は配置していません。基本は210m手前のTR-210(RはResetの略)1箇所のみ。ただし、運転本数の多い路線や、停止信号に引っかかりやすい場内信号機には、地上子を増やしているところもあります。

運転本数の多い区間として、東海道線の岡崎~尾張一宮間、中央線の名古屋~高蔵寺間、この2区間については、閉塞信号機にはTR-210のほかにTR-85を増設。さらに場内信号機(場内相当の閉塞信号機含む)にはTR-400を追加設置している駅もあります。

その他の区間でも、場内信号機にはTR-85が設置されている箇所が多く見られます。

ATS-PT 場内信号機・閉塞信号機の地上子配置
地上子
の種類
信号機
からの
距離
東海道(岡崎~尾張一宮)
中央(名古屋~高蔵寺)
左記以外の区間
場内信号機・
場内相当の
閉塞信号機
閉塞信号機 場内信号機・
場内相当の
閉塞信号機
閉塞信号機
直下 30 TS-30 TM-30 TS-30 TM-30
消去用 85 TR-85 TR-85 TR-85
(必要に応じ)
-
210 TR-210 TR-210 TR-210 TR-210
400 TR-400
(必要に応じ)
- - -
ロング 600 TL-600 TL-600 TL-600 TL-600

さて、出発信号機に対する地上子配置も見てみましょう。

出発信号機の場合は、駅によって地上子配置がバラバラで、同じ駅でも下りと上りで違うことも少なくありません。TR-210はよく見かけるのですが、その他は列車の停止目標に合わせて消去用地上子を配置しているようです。列車が発車すると、すぐパターンを更新できるようにしてある、というわけです。とくに信号機に近い停止目標(0標など)には必ず近くに地上子を増設してあります。

出発信号機の消去用地上子

また、折り返し列車は地上子を通過するまでパターンを持っていないので、早めに地上子を通過する必要があります。このため、折り返し列車のある駅では、地上子をマメに設置してあります。名古屋駅の中央線ホームからは、ものすごい数の消去用地上子がごらんになれます(笑)。

動画で見る地上子

実際の地上子配置を動画で見てみましょう。ちょうどいい動画がyoutubeにアップされていましたので、貼っておきます。中央線の千種~高蔵寺間、セントラルライナーの前面展望動画です。昨年6月頃撮影されたものらしく、まだ旅客列車はPTを使っていない時期の動画です。ATS-PTの使用区間も新守山までですが、高蔵寺まで大半の地上子はすでに設置済みです。

JR東海313系8000番台 前面展望 千種⇒高蔵寺(セントラルライナー3号)

線路の真ん中に見える白い箱がATS-PT地上子。左に寄って設置してあるのはST地上子です。

千種の10両標・0標近傍に設置の消去用地上子をはじめ、閉塞信号機のTL-600/TR-210/TR-85/TM-30の並び、場内信号機にはTR-400が追加設置されているものも確認できます。なお、分岐器速度制限地上子やロング地上子を省略する場合など、まだ解説していないものありますが、これはまた追々説明していきます。


ATS-PT講座、長かった地上子の話(笑)はいったん休止して、次回(第7回)からは車上装置の話を取り上げる予定です。

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2011年05月21日

前回のおさらい

ATS-PT講座前回は、信号を防護する地上子について、ロング・直下・消去用の三種類があること、信号の現示条件に応じて、停止位置までの距離を車上子に送信していることを説明しました。まずは、簡単にまとめましたので、おさらいしておきましょう。

下図は、前回用いた図を動画にして1枚にまとめた事例です。着目していただきたいのは、第3閉塞信号機の現示状態と、停止位置の関係です。

ATS-PTと信号現示

ATS-PTは、停止現示を示している信号機の10m手前で列車を停めます。このため、この停止位置までの距離を、地上子は列車(車上装置)に送る必要があるわけですね。上の図の事例の場合、第3閉塞信号機にぶらさがっている地上子が送信するのは、下表の距離になります。

地上子にセットする送信電文例(停止位置までの距離)
地上子の種類 地上子名 第3閉塞信号の現示
停止(R) 注意(Y) 進行(G)
ロング地上子 TL-600 * 588m 1,388m 2,120m
消去用地上子 TR-210 200m 1,000m 1,728m
直下地上子 TM-30/TS-30 ** 20m 820m 1,548m
* 送信距離は送信ビットの関係で4mの倍数となる(第4回参照
** 直下地上子は、停止現示のとき非常ブレーキ作動パターンも送信(後述)

このように、各地上子が送信する距離は、信号の3つの現示条件に合わせて、それぞれ3パターンしかないことがわかります。したがって、第3回で説明した無電源地上子(電文可変タイプ)に、この3つの距離をセットしておき、それを信号機の現示に合わせて切替えるというわけです。上の事例は3現示式ですが、無電源地上子は5種類までの電文を格納できますので、減速や警戒信号もある5現示式でも対応可能です。

ATS-Pと聞くとなにやら複雑なネットワークで処理しているイメージが強いですが、ことPTの地上子に関しては、上に説明した信号機と地上子だけのローカルなネットワーク、言ってみれば家庭内LANのような構成が大半です。ATS-PTはこの簡単な構造を採用して、地上子の設置コストを抑えています。

ロング地上子

続いて各地上子の解説です。まずはロング地上子。信号機の情報を最初に送信する地上子で、信号機の手前600mに設置します。地上子にはTL-600と書いてあるのが確認できます。Tはトランスポンダ(Transponder)の頭文字。Lはロング(Long)。600は信号機からの距離(メートル)です。

この600mという数字に、見覚えがあるかもしれません。いわゆる「600m条項」で「列車は600m以内に停止しなければならない」という在来線の高速化を縛ってきた規則です。現在はこの規則自体は消滅していますが、高規格の高速新線でもない限り、事実上はいまも準用されています。というわけで、ATS-Pでは速度照査を行うにあたって600m手前で情報を送ることが前提になっており、ロング地上子もこれに従っています。ただし、障害物があって設置できないときは、多少前後にずらすことがあります。このため、TL-610と書かれたロング地上子もあります。

さて、停止を現示している閉塞信号機に、列車が近づいてきました(下図)。ロング地上子を列車が通過すると、次の信号が赤であること、停止位置まで588m(590mを4m単位に切り捨て)であること、そのほか停止位置までの下り勾配情報をデジタル電文にて送信。車上子がこれを受け取り、列車に搭載した車上装置は、これらの情報をもとに速度照査パターンを作成します。

ロング地上子と速度パターン

あとは、ATS-PT講座第2回で説明したとおり、車上装置が速度と残りの距離を計算して、速度照査パターンと照合していきます。状況に応じて警告を発し、それでも速度が落ちずにパターンに当たると非常ブレーキをかけます。このようにATS-P形では、ロング地上子1個あれば十分な速度照査ができます。

ところで、上の図を見るとあることに気づきます。速度パターンが0まで行かず、あるところで速度一定のラインに変わっています。そう、ATS-Pには絶対停止がないんですね。これは地上子を使うATSの宿命みたいなものです。いくら停止信号で止まらなければならないとはいっても、その後信号が上位に変化して、発車してもよいとなったとき、その情報は地上子を通過して受け取らなくてはなりません。そのとき「絶対動いちゃダメ」なんてATSに縛られると、地上子を通過できず、ずっと動けないことになります。

レールから直接情報を受け取れるATCは停止状態でも電文を受け取ることができるので、絶対停止も可能ですが、地上子を用いるATS-Pは不可というわけです。このため、ATS-Pの減速するパターンは途中で終了し、10km/h一定の頭打ち速度照査パターンに切り変わります。

直下地上子

次に直下地上子です。ロング地上子とは逆で、信号にもっとも近いところに置きます。ATS-PTの場合、閉塞信号機や場内信号機は手前30mに置き、出発信号機は20m手前に設置するのが基本です。出発信号機が20mとなっているのは、駅の停車位置が出発信号機に近い場所の対処でしょう。閉塞・場内信号機は停止現示のとき、信号機の50m手前で停車するのが所定の運転取り扱いですが、出発信号機は駅の構造によってはそうも行かない場合もありますからね。たとえば、名古屋駅8番線は出発信号の9m手前に直下地上子を置いています。

直下地上子は、TS-30(または20)と書かれたものと、TM-30と書かれたものがあります。TSのSはロングの逆でshortの頭文字でしょうね。場内信号機や出発信号機、さらに場内相当の閉塞信号機など、無閉塞運転が禁止されている絶対信号機の直下地上子です。一方、TM-30は一般の閉塞信号機に対する直下地上子で、MはMuheisoku(無閉塞)の略でしょうか(笑)。

さて、直下地上子の役割としては、

  1. 停止信号を超えそうな車両に非常ブレーキを作動させる
  2. 停止信号で停止した列車に、上位変化(停止→注意・進行)の情報を与える

この二つがおもなものです。このほか無閉塞運転時の速度照査機能もあるのですが、上記について説明を加えます。

直下地上子の役割(1) 停止信号手前で強制非常ブレーキ

ロング地上子によって発生した速度パターンで、大半の防護はOKなのですが、これに加えて停止信号を超えそうな列車に対し、直下地上子は強制的に非常ブレーキを作動させます。その仕組みを見てみましょう。

下の図を見てください。さきほどのロング地上子で距離情報を受けて、速度パターンを作成した列車が、速度を落としながら停止信号に近づいてきました。信号機は相変わらず停止のままです。規則では信号機の50m手前で停まることになっていますが、これを運転士が失念してどんどん信号機に近づいて来たとします(図・左側)。

ATS-PT直下地上子と列車 ATS-PT直下地上子による強制非常ブレーキ

ここで直下地上子を通過しました。直下地上子は停止現示のとき、図・右側に示すような、速度パターンがドッカンと落ちるパターンを車上装置に作らせます。このような突然に変化するパターンができると、警告音もなく非常ブレーキがかかるというわけです。これは、絶対停止のないATS-Pで強制非常ブレーキをかけるための方策。もっとも、ごく遅い速度で進入すれば通過もできるのですが^^;

直下地上子の役割(2) 信号の上位変化を伝える

一つめは異常時の動作でしたが、こちらは正常な運転を行ったときの動作です。

停止信号に従い、信号機の手前50mで列車が停止しました。規則どおりの運転です。さて、ここで信号が停止から進行や注意に変わりました。信号は変わったものの、車上装置が作成した停止パターンはまだ生きていますので、パターンを更新しないと列車は信号を超えて進むことはできません。そこで列車は、新しい停止位置情報を直下地上子から受け取って、車上のパターンを更新するわけです

その様子を下図に示します。次回にお話しする消去用地上子と同様の役割で、日常的にはもっとも多い使われ方です。

ATS-PT直下地上子による速度パターンの更新

上の図でいくと、直下地上子(信号手前30m)を通過すればパターンは更新され、すぐに加速ができる理屈です。しかし、ATS-PTの車上装置はコストを抑えたためか、直下地上子を通過したことを運転士が知る術がないのです。JR貨物のATS-PFやJR東日本のATS-Psは、運転台に速度パターンが表示されるモニタが付いているのですが、ATS-PTの車上装置にはありません。地上子を通過しても音もしません。このため、運転士はパターンが更新されているかわからないので、信号機を通過するまでの50mを10km/h以下で走行しなければならないんですね。

ATS-PT導入以来、駅の手前で一度停止信号に引っかかると、信号が変わった後も恐ろしくゆっくり走っているのは、これが原因なんです。


ATS-PT講座・次回は消去用地上子について解説します。

2011年05月07日

JR東海が導入したATS-PTについての解説、第4回は第3回に引き続き地上子について取り上げます。

速度照査と地上子

ATS-PTは連続的に速度照査を行いますが、あらゆる速度制限に対してすべて速度照査をしているのかといえば、そうではありません。事故に直結するものはきちんと照査しますが、そうでないものは省略しています。

たとえば、信号機の注意現示。いわゆる黄色信号のことですが、通過するときは45km/hまたは55km/hまでに速度を落とす規則になっています。しかし、ATS-Pは注意現示の速度を照査しないのです。注意信号の先にある停止信号で、ATS-Pは必ず列車を停めることができるので、あえて途中段階の制限速度を照査する必要がないというわけです。同様に減速現示(65または75km/h)、警戒現示(25km/h)についても速度照査をしません。

ATS-PTの主な機能
  速度照査をするもの 速度照査をしないもの
出発信号機
場内信号機
閉塞信号機
停止信号 注意現示
警戒・減速現示
曲線速度制限 速度制限の厳しい曲線
転覆に対する危険度0.9以上
速度制限の緩やかな曲線
分岐器速度制限 速度制限の厳しい分岐器
転覆に対する危険度0.8以上
高速分岐器

上の表に、ATS-PTで速度照査を行うものとそうでないものを区別してみました。曲線の速度制限もPTで照査しない場合があります。たとえば中央線の場合、80km/h以下の曲線には速度照査地上子が設置されていますが、95~100km/h程度の制限では見あたりません。

これは、速度照査をすべき曲線に対する国の技術基準が、転覆の危険度が0.9を超えないことと定めているためです。曲線の速度制限は乗客の乗り心地で決められるケースも多く、速度超過が脱線・転覆といった危険に直結しない場合があるんですね。ATS-PTは線区最高速度を別途監視しています。この監視下における最高速度で、速度制限の緩やかな曲線に突っ込んだとしても、転覆に対する危険度が0.9を超えないと判断された箇所は速度照査しない、というわけです。

分岐器も同様ですが、分岐側の速度制限は一般に厳しいので、大半は速度照査を行っているようです。

このように速度照査を行うか行わないかは、すべて地上子の配置によって決まります。車上装置は地上子から受ける電文に基づいて速度照査を行っているにすぎないわけですね(その割りには地上子に着目したサイトが少ないのは気のせいでしょうか^^;)。

停止信号を防護する地上子

では、実際の地上子の配置を見てみましょう。まずは、停止信号に対する防護を行う地上子です。目的は、停止信号(赤信号)を超えて列車を走らせないことです。

以下の図に、閉塞信号機に対する標準的な地上子の配置を示します。「ロング」「消去用」「直下」と呼ばれる三種類の地上子が配置されます。ロングと直下は1箇所ですが、消去用地上子は設置位置や路線の運行状況により複数個設置される場合があります。場内信号機・出発信号機も基本的には同じ構成です。

ATS-PT 停止信号を防護する地上子

ATS-PTの場合、各地上子は前回解説した無電源地上子(電文可変タイプ)が基本で、属する信号機と通信ケーブルでつながっており、信号の現示に応じて停止位置までの距離をデジタル電文で送ることになります。第2回で説明したとおり、ATS-Pでは停止信号の10m手前で停めることになっていますので、地上子と信号機の距離から10mを差し引いた距離を送るわけですね。

図の閉塞信号が停止(赤)を現示している場合、以下のように送信します。

停止信号に対する地上子からの電文
地上子の種類 地上子の名称 信号機
までの距離
停止位置
までの距離
電文で送信
する距離
ロング地上子 TL-600 600m 590m 588m
消去用地上子 TR-210 210m 200m 200m
直下地上子 TM-30/TS-30 30m 20m 20m

さて、ここで変な数字が出てきました。ロング地上子が実際に送る電文に注目です。ロング地上子は信号機の手前600mに設置され、停止位置である信号機の手前10mを引くと590mです。ところが、実際に送る距離は588mです。なぜこのようなことになるのでしょうか。

実はATS-Pの仕様は、停止位置までの距離を4m刻みでしか送れないんです。というのも、車上子と地上子のアクセス時間は一瞬です。デジタル通信を行うといえども、正味48ビットの情報しか送れません。バイト換算するとたったの6バイト。この48ビットの中には、地上子に関する基本情報、ブレーキ距離に影響を与える下り勾配情報も含んでおり、とても1m単位で距離を送るだけの情報量が確保されないんですね。そこで4m刻みで距離を送り、ビット数を節約しているというわけです。

この結果590mは、4の倍数でかつ安全側に短い方に丸められ、588mが実際に送られる距離となります。一方、消去用(TR-210)・直下(TM-30)の各地上子が送る距離は、たまたま4mで割り切れるので、そのまま距離が送られています。

注意現示で地上子が送る情報

前項では直近の信号が停止現示のときについて説明しました。では、注意信号のとき地上子はどんな電文を送るか見てみましょう。

え?注意信号に対する速度照査はやらないんじゃなかったのか?って?

はい、おっしゃるとおりです。「注意信号だぞ~!45km/hまで速度を落とさないとブレーキかけるぞ~!」という働きはATS-Pは行いません。しかし、注意信号が出ているということは、次の信号が赤だということです(三現示式の場合)。つまり、そこから距離を計算して、停止を現示している次の信号までの距離を地上子はちゃんと送るようにできているんですね。

ATS-PT 注意現示と地上s

上の図では、第3閉塞信号が黄色つまり注意現示にを示しており、1つの先の第2閉塞信号が赤=停止を現示しています。このとき、第3閉塞信号に属する地上子は以下の距離を電文で送ります。[信号機までの距離] +[次の閉塞区間長]-10mが停止位置までの距離になります。

注意信号に対する地上子からの電文
地上子の種類 地上子の名称 信号機
までの距離
次の閉塞
区間距離
停止位置
までの距離
電文で送信
する距離
ロング地上子 TL-600 600m 800m 1,390m 1,388m
消去用地上子 TR-210 210m 1,000m 1,000m
直下地上子 TM-30/TS-30 30m 820m 820m

このように、信号の現示によって停止信号までの距離がどうなるかをあらかじめ計算しておき、無電源地上子に仕込んでおきます。無電源地上子は5種類の電文をプリセットできますので、これを信号の現示によって切り替えて電文を送信するというわけです。

進行現示で地上子が送る電文

くどいようですが、進行現示の場合も見てみましょう。想定するのは以下の状態です。第1閉塞信号が停止(赤)を現示しており、その手前の第2閉塞が注意、さらに手前の第3閉塞は進行現示です。

ATS-PT 進行現示と地上子

注意信号の場合と同様に、下表のとおり二つ先までの閉塞区間長を加えた距離を算定して、地上子から電文を送ります。今度はロング地上子(TL-600)の距離が4mで割り切れましたが、消去用(TR-210)・直下(TM-30)の各地上子が4mで割り切れない事例を示しています。

進行信号に対する地上子からの電文
地上子の種類 地上子の名称 信号機
までの距離
第1・第2閉塞
区間距離
停止位置
までの距離
電文で送信
する距離
ロング地上子 TL-600 600m 800+730
=1,530m
2,120m 2,120m
消去用地上子 TR-210 210m 1,730m 1,728m
直下地上子 TM-30/TS-30 30m 1,550m 1,548m

ところで、進行現示の場合、次の信号が注意現示であるとは限りません。次の信号も進行かもしれません。しかし、ATS-PTで進行現示の場合は、次が注意現示だと仮定して電文を送っておきます。こうしておくことで、不測の事態(地上子の故障・信号機の停電)が生じても、列車は必ず安全な位置で停まります。

仮定に反して次の信号も進行だったとしても、次の閉塞区間に入れば新たな電文を受け取り、距離情報は更新されます。閉塞区間長は通常600m程度はあります。したがって、1200m手前で距離は更新され続けることになり、無駄にパターンに当たることはないようです。


ちょっと長くなりました。次回(第5回)からはロング地上子・直下地上子・消去用地上子、それぞれの役割を見てみることにします。

2011年04月21日

当ブログではATS-PT使用開始情報についてお伝えしてきましたが、平成22年度分の工事が完了し、3月12日のダイヤ改正から1週間ほど経つと、運用区間ではすべての車両がATS-PTを使用するようになりました。すっかりPTも日常の風景になりましたね。

さて、前回からしばらく時間が経ってしまったATS-PT講座ですが、今回はATS-PT地上子について取り上げます。

ATS-PT形地上子

ATS-PT地上子
ATS-PT地上子

みなさんもよくご覧になると思いますが、右の写真がATS-PT地上子です。白い樹脂製のケースの中にトランスポンダが入っており、車両側の車上子に対し、電波を用いてデジタル電文を送信します。

さて、PT形の地上子は、他のATS-P地上子と比べてかなり大振りです。JR東日本や西日本のP形地上子はもっと小さく、枕木の幅に収まるほどの大きさなんですね。PT形地上子は他社のATS-Pと互換性がありますので、基本的な機能は同じなのですが、なぜこれほどケースが大きいのかはちょっと謎です。

P形地上子は双方向対応が基本。しかしPT形は…

ATS-ST形地上子
ATS-ST形地上子

ATS-P形地上子の特徴として、列車の運転方向を問わない「双方向対応」という特徴があり、2本のレールのちょうど真ん中に設置します。一方、旧来のS形(ST形含む)の地上子を右に示しますが、このようにレールの中心からオフセットして設置してあるんですね。

P形とS形地上子の違いを下の図にまとめてみました。旧来のS形は、車上子を進行方向左側に設置することになっており、対応する地上子も進行方向によって別々に配置してあります。

一方、P形は地上子も車上子も中央に配置されていますので、列車の運転方向を問いません。地上子は、進行方向にかかわらず、車両と通信ができます。これは、ATS-P形が符号処理装置(エンコーダ)によって、地上子の機能を状況に応じて変えられることが前提になっているためでしょう。連動装置と連携して、あるときは上り列車用、あるときは下り列車用にひとつの地上子の機能を変えられるわけですね。

ATS-S形は対応する方向が定まっている ATS-P形は方向を問わない

ただしATS-PT形は、無電源地上子を多用してコストを抑えた廉価版のATS-Pです。無電源地上子については後で詳しく書きますが、あまり複雑な機能の切替はできません。このため、上り列車用に発している電文を下り列車が拾ってしまうこともありえます。そこでPT形では、車上子・地上子それぞれ進行方向に応じてA線・B線の属性を与えてあります。電文情報の中にA線・B線を区別する情報を含んでおき、旧来のST形と同様に進行方向によって区別しているわけですね。

ATS-PT地上子の種類

ATS-PT形の地上子には以下の3種類の地上子があります。PT形で特徴的なのは、高価なエンコーダ式地上子を極力減らし、設置コストの安い無電源地上子を多用していることです。

ATS-PT形地上子の種類
地上子の種類 用途 JB エンコーダ
エンコーダ式地上子 進路の複雑な場内信号機など あり
無電源地上子 電文固定 速度制限など なし 不要
電文可変 閉塞信号機
進路の簡単な場内・出発信号機
あり 不要

表中のJBは右の写真にあるジョイントボックスです。電文を切替える地上子へ通信ケーブルを接続するために設置します。では、各地上子について簡単に解説しましょう。

エンコーダ式地上子
ATS-PTのジョイントボックス(JB)
ジョイントボックス(JB)
ATS-P形の基本となる地上子で、連動装置や信号機の現示情報をもとに、符号処理機(エンコーダ)が電文を作成しジョイントボックス(JB・写真)を介して、この地上子に送ります。エンコーダを用いることで複雑な条件にも対応でき、信号防護用と速度制限用に電文を切替えることも可能です。また、車両から地上に電文を送ることもでき、JR東日本・西日本のATS-Pはこの地上子が基本になっています。
一方で、エンコーダを設置したり、動作のための電源ケーブルを地上子まで設置する必要があるなど、設置コストが高く付きます。ATS-PTでは、構内や進路の複雑な信号機の地上子に用いられる程度で、あまり使われていません
無電源地上子(電文固定タイプ)
無電源地上子の仕組み
文字通り「電源の要らない地上子」です。この地上子の上をATS-P形車上装置を搭載車両が通過すると、車上子から無線で電力が送られて、その電力で地上子が動作します。TOICAやSuicaなどの電子マネーはカードに電池はなく、改札機から電波で電気を受けて機能しますが、無電源地上子も電子マネーとよく似ています。
この地上子は、おもに曲線などの速度制限の電文を送るのに使われます。先行列車の位置によって変化する信号機の現示とは異なり、曲線制限は常に一定の情報を送ればいいわけですから、何の細工も要りません。通信ケーブルやジョイントボックス(JB)も不要で、置いておくだけで動作します。
逆に言えば、近くにJBがない地上子は、このタイプだとわかるわけですね。
無電源地上子(電文可変タイプ)
ATS-Pは信頼性の高いシステムですが、信号の現示や分岐器の進路に合わせて、地上子から送る電文を変化させる機構が高価になるのが欠点でした。そこで無電源地上子に改良を加え、条件に合わせて電文を切替えられるようにしたのが、電文可変タイプの無電源地上子です。JR東日本が輸送量の比較的少ない路線向けにATS-PNとして開発したもので、ATS-PTはこの地上子を基本としています。
この地上子はROMに組み込まれた最大5種類の電文を、信号の現示条件によって切替えることができます。進路が複雑な駅の信号機では使えませんが、閉塞信号機にはすべて使用可能ですし、待避線が一本ある程度の駅でも対応可能です。信号の現示条件によって切替えることは、従来のS形地上子と同様の仕組みで行えますし、電源ケーブルもエンコーダも不要なので、設置コストが安くて済みます。
ただし、信号機までの通信ケーブルは必要なので、ジョイントボックス(JB)が設置されます。

長くなりましたが、地上子の基本事項についてお伝えしました。次回(第4回)は、信号機の現示によって地上子はどんな情報を送っているのか、地上子はどのように配置されているのかをお伝えする予定です。

2011年02月28日

先日2月20日現在のATS-PT使用状況をお伝えしてばかりですが、本日2月28日に至り、最後まで残っていた名古屋駅付近のATS-PT工事が完了した模様です。PT使用開始編成はATS-Pのまま名古屋駅に進入するようになりました。

これで平成22年度分のATS-PT整備工事は完了したようですね。あとは使用開始編成を順次増やしていくものと思われます。さて、運用区間情報を改めてまとめてみました。青い線がPT整備完了区間です。

中央線

中央線ATS-PT使用区間 2011年2月末

平成22年度における中央線のATS-PT整備区間は名古屋から中津川までです。P⇔Sの切替区間は中津川の落合川方にありますので、名古屋口の大半の列車はもっぱらPTのみを使用することになります。なお、名古屋港線・愛環線はATS-PT整備の対象外、太多線は来年度の整備範囲ですので、山王信号場・高蔵寺・多治見付近にはP⇔Sの切替標識が立っています。

関西線

関西線ATS-PT使用区間 2011年2月末

平成22年度における関西線のATS-PT整備区間は名古屋から河原田まで。その先、亀山までは来年度の整備範囲です。伊勢鉄道線はATS-PT整備対象外ですので、関西線との分岐箇所にP⇔Sの切替標識があります。なお、伊勢鉄道の車両は四日市まで関西線に乗り入れますので、PT車上装置を装備しています。

東海道線

東海道線豊橋方ATS-PT使用区間 2011年2月末

東海道線は熱海~米原、大垣~美濃赤坂の全線が今年度の整備対象です。米原付近、西日本との境界部はいったんS形に戻るようですが、今後どのような扱いをしていくのかは興味深いところです。

また、飯田線の豊川~小坂井間、高山線の岐阜~美濃太田間もPTの工事が完了しています。


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