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帰ってきたyokeのブログ。JR東海運用情報の更新情報も兼ねています。
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2011.10.18より
2012年02月06日

ATS-PT講座の第12回目。今回は最近行われた小改良についてお知らせします。

ATS-PT TR地上子標識

お気づきの方もあるかもしれませんが、今年に入って、場内信号機の手前などに、右に示すような標識が設置されたところがあります。実はこれ、ATS-PTの弱点を補うものなんですね。


さて、このブログでは、ATS-PTの構造上の弱点・問題点は、以下に集約されるとしてきました。

  • パターン接近があると、運転士がブレーキを手動でかけなくてはならない
  • 運転士にパターンの更新が通知されない

通常の運転ではさほど問題がないものの、信号が上位変化したとき(赤から黄色に変わったときなど)、この二つによって円滑な運転が妨げられることです。詳細は以下の記事で解説しています。

第9回では問題点の整理。第10回では、赤信号(停止現示)で停止したときの運転扱いにおける問題点と、一部の駅で実施された解決策について説明しました。

今回お知らせするのは、赤信号で停止する前に、信号が上位変化したときの改良についてです。

消去用地上子の役割とPTの問題点

当講座の第5回第6回で詳しく説明していますが、ATS-Pの信号防護用地上子には、ロング・直下・消去用の3種類があります。P型はパターンによる連続制御ですから、ロング地上子1個あればパターンの生成は問題ありません。

一方、下の図に示すように、信号が途中で上位変化(赤から黄色や青になる)したときは消去用地上子が効力を発揮します。この地上子が不要となったパターンを消去(更新)し、この働きによって、再加速を可能にしたり、無駄なパターンで減速を強いられることから解放されるわけですね。

消去用地上子の働き 注意現示

ところが、ATS-PTでは問題が一つ生じます。それは、パターンの更新が運転士に伝えられないということです。音もなければ、表示もありません。せっかくパターンが更新されても、運転士に伝わらなければ意味がありません。結局、運転士はあるはずのないパターンに縛られることになります。

この状況がわかる動画がyoutubeに上がっていましたので、これで実際の走行風景を見てみましょう。この動画は、飯田線下り特急伊那路の前面展望。問題の箇所は15:00付近、新城駅に入っていくところです

動画時刻の15:03あたりで、注意現示の遠方信号機を通過します。遠方が注意ですから、場内は停止です。そして15:40ぐらいで消去用地上子を通過するのですが、このときすでに場内信号機は進行現示に変化しています。しかし、運転士はパターンの更新を知り得ずないはずのパターンを警戒して、場内信号機の手前50mでは10km/h以下で走行しているのが確認できます。消去用地上子通過(15:40)から場内信号機通過(16:55)までの210mを走るのに1分以上かかっています。

さきほどの図では、消去用地上子は信号機手前210m(TR-210)の一箇所ですが、列車密度の高いところでは円滑な運転を考慮して、85m手前・400m手前などにも増設されています。しかし、運転士がパターン更新を知り得なければ、宝の持ち腐れ。せっかくの地上子増設も意味をなさない状態が続いていました。

標識でパターン更新を知らせる

パターンの更新を運転士が知る方法として、車上装置が通知する以外に、地上子の通過を確認するという方法もあります。しかし、運転士も地上子ばかり気にして運転するわけにもいきませんし、何より地上子自体が見えにくいです。レールの間にあるので粉塵で汚れていますし、ライトで反射もしないので夜間の視認も困難です。

そこで、最近取られた方法が、消去用地上子位置に標識を設置するというものです。以下の図は、中央線下り春日井駅場内信号機に関する地上子配置で、ロング・直下のほか、消去用地上子が3箇所(TR-85/210/400)設けられています(このほか分岐器用地上子がありますが、ここでは省略しています)。

ATS-PT 地上子配置 春日井駅下り場内

この図で目を引くのが、[ATS-P/TR]という標識です。この記事の冒頭に拡大図がありますが、これをTR-210地上子付近に新設しています。この標識を通過することで、運転士はパターン更新を明確に知ることができるというわけです。欲を言えば、TR-400地上子にもほしいところですが、とりあえずはこれで様子を見ようということでしょうか。

ATS-PT TR85標識

また、TR-85手前に右のような標識が追加されています。力行標とよく似ていますが、これは場内信号機で停止するときの停止目標です。通常の取り扱いでは、信号機の手前50mで停止することになっているのですが、信号機が上位変化して発車した後、すぐにパターンが更新されるよう、TR-85地上子の直前に停止位置を移したものです。以下の記事で詳しくお知らせしたものと同じです。

ただし、春日井駅に設置されたものは、やや見えにくかった枕木上の表示から、視認性の高い反射式の標識に変更されているのが特徴です。TRとも書かれており、地上子通過の標識も兼ねているようです。


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2011年12月30日

久しぶりにATS-PTの話題です。ご存知の方も多いと思いますが、373系電車に、ATS-P車上装置がATS-PTに載せ替えられた編成が現れています。この動きを受けて、373系の東京乗り入れはなくなるのでは?といった憶測も飛んでいます。その真偽はさておいて、ここでは373系にATS-PT車上装置を搭載する機構的な意味について考えてみます。

373系とATS-P

373系・伊那路

373系電車と言えば、身延線の「特急ふじかわ」(現在運行休止中)や飯田線の「特急伊那路」などローカル線特急として使われる一方、「ムーンライトながら」や「特急東海」などJR東日本に乗り入れて東京まで行く車両としての位置づけも持ちます。「ながら」や「東海」の運用はすでにありませんが、東京乗り入れの運用は現在も残っています。

このような東京乗り入れのため、ATS-PT導入前から373系にはJR東日本仕様のATS-Pが搭載されていました。東海のPT形と東日本のP形には互換性がありますので、東海がPT形を導入してた後もP形車上装置は問題なく使われると思ったのですが、ここへきて373系はPT形車上装置に換装しました。

「なぜ、こんなことを?」と思った方も多いようです。その背景には、東日本のP形がフルスペックであるのに対し、PT形はP形の機能を一部省いた廉価版である、との位置付けが広く知られているためでしょう。とくに、車上装置の動作に関して、東日本のP形はパターンに当たっても常用ブレーキ・自動緩解、対するPT形はパターン即非常ブレーキです。「なぜグレードを下げるのか?」との疑問がわいても不思議ではありません。

東日本のP形はPT形の完全上位互換ではない

この換装に関して、私も疑問に思っていたのですが、ふとあることを思い出しました。以前、このブログのコメント欄で話題になったことがあるのですが、PT形換装前の373系運転席にこんなステッカーが貼ってあったのです。

飯田線・身延線 ATS切換連動 短絡・開放位置確認

ATS切換連動とは、ATS-P形による防護を行っている箇所では、ATS-S形を停止する機能です。P形とS形を同時に使わないようにするもので、東日本のP形や東海のPT形はこの機能を使うのが基本です。

その一方でJR西日本では、P形とS形を併用する拠点P形方式があります。この区間を走行する場合は、切換連動スイッチを開放(または短絡)にして、切換連動機能を停止します(詳細はATS-PT講座第7回を参照)。

つまり、このステッカーの意味するところは、飯田線・身延線では、P形とST形を併用しなさいという意味なんですね。

なお、飯田線を走る313系(PT搭載車)には、こんなステッカーは貼られていませんでした。ということは、

  • ATS-PT形車上装置には、ATS-P形(東日本仕様)にない機能がある
  • その機能がないと、飯田線・身延線で問題が生じる
  • このため、P形(東日本仕様車)はST形を併用する

こんなことが推測できます。

P形とPT形 車上装置の違い

東海のATS-PT形と東日本のATS-P形。373系搭載の車上装置に関して、下表に違いを列挙してみましたのでご覧ください。東日本のP形が上位互換のように見えて、PT形独自の機能があったり、古いP形システムにはなかったり、ともに対応はしていても完全一致でないものもあります。

373系搭載車上装置の違い
機能 ATS-P ATS-PT
パターン超過時のブレーキ 常用・自動緩解 非常・即時停止
車上→地上 電文伝送 あり オプション
無閉塞運転 防護機能 なし あり
線区最高速度 制限機能 なし あり
曲線制限時の車両グループ分け あり

表のうち、上の二つは東日本P形が上位互換を持っています。車上→地上の情報伝送は、列車・車両の種類によって信号の現示を変えたり(現示アップ機能)、列車種別によって踏切を閉めるタイミングを変えたり(定時間踏切制御)などが目的です。PTの車上装置はオプション扱いです。

一方、PT形独自の機能もあります。まずは、無閉塞運転時の防護機能。無閉塞運転とは、閉塞信号機が停止現示(赤)を示していて、現示が変わらないとき、一定時間経過後に徐行して列車を進めることです。JR東日本は無閉塞運転を禁止していますので、P形にも機能はありません。一方、JR東海は条件付きながら認めていますので、PT形に無閉塞運転の速度制限(15km/h)機能を盛り込んでいます。

もう一つの機能として、線区最高速度があります。PT形車上装置は、車両の最高速度を常に監視しています。省令改正の関係で最近はこの機能を盛り込むことが標準になっているようですが、もともとのP形にはなかった機能なんですね。したがって、373系搭載の古いP形車上装置には組み込まれていないものと思われます。この機能がない車上装置は、場合によっては危険側に作用します。というのも、最高速度を監視しておけば、比較的速度の高い曲線制限地上子を省略できるからなんですね。たとえば、中央線の曲線制限地上子を見ますと、80km/h程度の制限地上子は見かけるものの、95km/hぐらいの曲線制限地上子は見あたりません。最高速度を監視しておけば、ある速度以上の地上子は設置基準(転覆限界0.9以下)から外れるのでしょう。

そして、速度制限のグループ分けです。たとえば、曲線制限一つを取っても、貨物列車と旅客列車では制限速度が違います。旅客列車でも普通列車と特急列車では、しばしば異なる制限速度になります。そこで、ATS-PT形では、車種によって異なる制限速度が与えられるようになっています。車種を5つのグループに分け、地上子は5種類の制限速度を送り、車上装置はあらかじめセットされたグループの速度を選んで制限パターンを作ります。この機能、東日本のP形には当初なかったようで、後に追加となったものの、PT形とは車種のグループ分けが異なっている可能性があります。

飯田線・身延線で生じる問題とは?

さて、これらの違いをふまえて、飯田線・身延線でST形を併用しなくてはならない東日本仕様のP形の問題とは何かを考えてみます。

まず、無閉塞運転機能。これは関係ないでしょう。無閉塞運転は東海道線でも行えます。むしろ飯田線・身延線は、閉塞信号のない自動閉塞式(特殊)の区間が多いので、そもそも無閉塞運転ができない(閉塞信号機がない)箇所が多いんですね。

となると、可能性が高いのはやはり線区最高速度でしょうか。飯田線・身延線に共通しているのは、最高速度が85km/hと比較的低いこと。線区最高速度の監視ができない仕様のP形では、ある種の速度制限に高い速度で突っ込んでしまう可能性がある、といったところでしょうか。

また、制限速度のグループ分けですが、こちらはよくわかりません。篠ノ井線で「しなの」が乗り入れを行っていることから、ある程度のグループ分けは一致しているものと思います。


本記事中の画像は、ウィキメディアコモンズより。cc-by-sa3.0


2011年09月12日

ここのところ、車両に大きな動きがあったため、少し間が開いてしまったATS-PT講座ですが、前回(第9回)は、非常ブレーキしかないATS-PT車上装置の問題点について解説しました。

通常の運転ではさほど影響ないものの、信号が上位変化した場合に、以下の点が円滑な運転を妨げることになります。

  • パターン接近があると、運転士がブレーキを手動でかけなくてはならない
  • 運転士にパターンの更新が通知されない

第10回となる今回もこの2点に着目しつつ、もっとも問題となることが多い「停止信号で一旦停止場合の取扱い」についての具体例と、最近実施された改良方法について説明します。

場内信号が赤を示した場合の運転取扱いと問題点

下の図は、場内信号機に停止現示(赤)が出ているときの、車上パターンと実際の運転操作を示したものです。赤の線はATS-Pによってブレーキが作動するパターン。青の線はブレーキ動作の5秒前に鳴る接近警報のパターンです。

赤い線にあたった場合、JR東・西のATS-Pは常用ブレーキがかかるだけで、所定の速度まで下がればブレーキは自動的に緩みます。しかし、ATS-PT車上装置はいきなり非常ブレーキをかけてしまいますので、通常の運転時にはこのパターンに当たることは避けなくてはなりません。このため、ATS-PT搭載車では、青い線(パターン接近)に当たった時点で運転士が手動でブレーキをかけて速度を落とします。

赤信号のパターン・接近

さて、停止信号にかかわる運転取り扱いでは、停止信号の50m手前で停止することになっています。そこで、黒い破線のように速度を落とし、信号機の50m手前で列車を停止させます。ここまではとくに問題ありません。


次に下の図を見てください。所定の位置で停止したのち、前方の進路が開通し、信号が停止から注意現示に変わりました。通常の運転規則であれば、45km/hないし55km/hの制限速度をもって、信号を超えることができます。

しかし、ATS-Pは車上装置にパターンが残っています。パターンは地上子を通過するまで更新されないので、むやみに速度を上げることはできません。

ATS-PT パターン更新 旧来型

場内信号機の50m手前を発車した列車は、20m程度走ってTS-30地上子を通過するまで、停止パターンが残っています。通過前に速度を10km/h以上に上げてしまうと、パターン接近の青い線にあたってしまい警報が鳴ります。そこでパターンが更新されるまでは、運転士は10km/h以下に落とす、あるいは最初から10km/h未満に速度を抑えて運転します。

ところが、PTではもう一つの問題が生じます。ATS-PT車上装置はパターンの消去(更新)を運転士に通知しません。TS-30を超えた時点でパターンは更新されるのですが、運転士はそれを知ることができないので、結局信号機建植位置まで10km/h未満で走行しなければなりません。10km/h未満という速度は、体感的にハエでもとまりそうなぐらい(笑)。この50mを通過するのに、以前なら10~15秒程度のところが、30秒以上かかってしまうことも。さらに、信号機を超えてからやっと速度を上げるので、ロスタイムは相当なものになります。

そもそも駅の手前で停止を余儀なくされること自体、ダイヤに遅れが生じているわけですが、PTの取り扱いによって、ますます遅れが拡大することになるわけですね。

一部の駅で導入された改良型取扱い

さて、このような問題を解消するにはどうすればよいでしょうか、思いつくところを並べると、

  1. PT車上装置を常用ブレーキ・自動緩解に改良する
  2. 運転席にパターン表示モニタを取り付ける
  3. 停止位置のすぐ先に消去用地上子を増設する

1番目はJR東西のATS-Pと同様の改良を施すわけですが、PTの根幹に関わる部分なので、そう簡単には実施されないでしょう。2番目は、ATS-PFやATS-Ps車上装置で実績がありますが、これも新たなコストが発生しそうです。3番目は対症療法的なもので、頻繁に列車を停止させる信号機にのみ、地上子を増設するものです。1番・2番ほどではありませんが、新たなコストを生じます。

さて、どうするのかと思っていたのですが、8月ごろに動きがありました。おそらくもっともコストのかからない方法です。それは、

  • 停止することの多い場内信号機に対して、停止位置を変更する

というものです。下の図をご覧ください。

ATS-PT パターン更新 改良型

つまり、所定では50m手前であった停止位置を、消去用地上子TR-85の直前に変更するというわけです。

具体的には、TR-85地上子の直前に[]と書かれた停止目標(枕木上)を設置します。この位置で停止すれば、信号が上位に変化して発車すると、すぐにTR-85地上子を通過し、パターンが更新されるんですね。旧来のTS-30地上子を通過するときに比べて、パターンにも速度的な余裕がありますので、運転士は何も考えずフルノッチを入れて速度を上げられるというわけです。

現在のところ、場内信号機に対して停止目標が設置された駅は、

  • 名古屋駅 - 中央線(上り線) 第1場内信号機・第2場内信号機
  • 大曽根駅 - 中央線(上り線) 場内信号機

この3箇所を確認しています。いずれの駅も、駅構内の進路がなかなか開かず、場内信号機で列車が停止することが多い駅です。PT導入以来、遅延が多発していましたが、この措置によってスムーズな運転が実施されるようになりました。

ただし、この方法はどんな駅にでも適用できるものではありません。以前説明したとおり、TR-85は必ず設置されているわけではないからです。また、出発信号機と停止位置が近い場合の問題が生じる箇所については、抜本的な対策とはなりえないのも事実です。とはいえ、簡単な方法で問題をクリアしてくれたのはありがたいことです^^

追記 地上子通過標識も新たに

2012年に入り、消去用地上子を通過したことを示す標識が、新たに追加されている箇所が出てきました。

これも円滑な運転のために実施された改良と思われます。効果に期待したいところです。


2011年08月10日

ATS-PT講座の9回目です。前回も含め、ここのところ車上装置について解説を続けており、今回も車上子についてお送りする予定でした。ところが、ATS-PTの取り扱いに変化の兆しがあったことから、PTの問題がどこにあるのか、その解決策はどのように実施されるのかについて、お話ししたいと思います。今回はその前段として、問題点の整理です。

非常ブレーキしかないATS-PT

JR東日本・西日本で採用されている通常のATS-Pは、速度照査パターンに当たると、自動的に常用ブレーキが動作し速度を落としてくれます。所定の速度まで落ちると自動的にブレーキは緩解し、運転を続行することができます。パターンにあたってブレーキがかかることは、日常的とも言えるでしょう。

一方、ATS-PTはパターンに当たると、即座に非常ブレーキが作動して、列車を停めてしまいます。非常ブレーキで列車が止まる、被害こそありませんが、一種の事故扱いです。場合によっては、ニュースになってしまうこともあります。したがって、パターンに当たることは避けなくてはなりません。

さて、ATS-Pはパターンに当たる前に、警報音と警告灯でパターン接近を知らせます。ブレーキが作動する5秒前にパターン接近警報を発して、運転士に知らせる仕組みです(下図)。JR東日本ではパターン接近が鳴っても、運転士は割りと平気な顔をしていますが、JR東海では放置すれば非常ブレーキですから、慌ててブレーキをかける姿が見られます(苦笑)。結局のところ、運転取り扱いには

  • 通常のATS-P - ブレーキパターンに当たってもよい
  • ATS-PT - パターン接近でブレーキをかける必要あり

扱うパターンに差が出てくるわけですね。

ロング地上子のパターン・接近

とはいえ、パターン接近警報は滅多に見ることもありません。たとえば、上の図は停止信号でのパターンと実際の運転曲線を示したものです。ATS-Pのパターンは信号機の10m手前で停まるように設定されていますが、実際の運転取り扱いは信号機の50m手前で停止ですから、十分に余裕があります。

赤信号で進めないのに、ギリギリまでブレーキを遅らせる運転士もいませんので、そう簡単にパターン接近が点灯することはありません。非常ブレーキしかないから、運転が即シビアだとは言えないようです。

問題は停止現示が上位変化したとき

この講座の第6回で、停止信号が途中で上位(注意・進行)に変化した場合、消去用地上子が車上に残ったパターンを消去(更新)してくれることを説明しました。ATS-Pはパターンを車上に記憶しますので、信号が変わっただけではパターンは消去されませんが、途中の地上子を通過すれば、車上のパターンが更新されて、加速を可能にしたり、不要な減速から開放される仕組みです(下図)。

消去用地上子の働き 注意現示

実は、「通常のATS-P」と「非常ブレーキしかないATS-PT」で、取り扱いに大きく差が生じるのは、こんなふうに停止現示が上位変化したときなんですね。

下の図は、実際のブレーキパターンを想定したものです。信号機から10m手前のポイントを0km/hとして、ブレーキパターン(赤の線)はおおむね2.7km/h/sを想定し、1秒間の空走距離を加えたもの。パターン接近(青の線)は、5秒の空走距離を考慮したラインとしています。直下地上子は信号機から30m手前に、消去用地上子は信号機の手前85mおよび210mにあるとして、交点の速度を計算してみました。なお、JR東日本など通常のATS-Pでは210mではなく180m手前に設置しているので、その点の速度も求めています。

さて、下のグラフを見ながら、実際の運転の違いを考えてみましょう。停止信号を示した区間に列車が近づいてきました。その後、途中で信号が注意に上位変化したとします。地上子を通過すればパターンが更新されるといった状況です。

ブレーキパターンと接近パターン

まず、JR東日本など通常のATS-Pの場合です。注意に変わったわけですから、列車は55km/hを保って信号機に近づいてきます。青い線と交差したところで、パターン接近警報が鳴りますが、信号が変わっていますから、そのまま進むと図のT-180を通過した時点でパターンは更新されます。ちょうどブレーキパターンが55km/hなので、一瞬ATSブレーキはかかるかもしれませんが、すぐに緩みます。T-180を通過してから信号が上位変化した場合でも、ATSブレーキで35km/hまで速度が落ちた時点でT-85を通過し、ブレーキは自動的に緩みます。

一方、ATS-PTは、そんな簡単なわけにはいきません。同様に信号が注意に上位変化し、55km/hで近づいていくと、210m手前の消去用地上子を通過する前に、パターン接近警報が鳴ります。
「うわ!鳴った!」
と運転士はブレーキをかけます。すぐに210mの消去用地上子を通過して、パターンは更新されるのですが、あいにくATS-PTにはパターンの更新を運転士に伝える仕組がないのです。音も鳴りませんし、表示もありません。その結果、必要以上に速度を落としてしまったり、マスコンを投入して落とした速度を再び上げる操作にためらってしまうわけですね。

210mの地上子を超えて信号が注意に変わった場合は、もっと悲惨です^^; 次の消去用地上子は85m手前。25km/h程度で通過すれば、パターン接近を鳴らさずに通過できますが、それ以上の速度ではパターン接近が鳴って結局速度を落とすことになります。85mの地上子は場所によってあったりなかったりですから、運転士もパターン更新に確証が持てず、10km/hまで落として場内信号を通過するというケースが少なくありません。こうなるとATS-PTがなかった時代に比べ、1分ぐらいは遅延してしまうでしょう。

つまるところATS-PTの問題は

何かに付け、非常ブレーキしかないことが問題視されるATS-PTですが、つまるところの問題点は、

  • パターン接近があると、運転士がブレーキを手動でかけなくてはならない
  • 運転士にパターンの更新が通知されない

この2点に集約されるでしょう。

ATS-PSの速度モニタ

ところでATS-PT以外にも、非常ブレーキしかないATS-P車上装置はあります。たとえば、JR貨物の機関車に装備されるATS-PFや、番外編で紹介したATS-Psなどです。しかし、この二つの車上装置は速度パターン表示器を装備していて、パターンの更新を知ることができ、二つめの問題がクリアされているんですね。

右の写真(ウィキペディアより)がATS-Psに搭載の速度モニタです。3種類の状況を示していますが、左側の緑のLEDが実車の速度を示し、右側の黄色のLEDが速度パターンを示しています。これがあれば、どの程度パターンに近づいているのかがわかりますし、黄色のLEDが跳ね上がればパターン更新だとわかります。これがATS-PTにもあれば話は簡単なんですけどね^^;


次回(第10回)のATS-PT講座は、さらなる問題である「場内信号で停止した場合のトロくさい運転取り扱い(笑)」と、最近実施された改善案について紹介します。

2011年07月08日

先日書きました『ATS-PT講座(8) -A線・B線方向切換-』コメントをいただきました。

東海道線⇔飯田線⇔中央西線もデルタを形成するのではないか?方向が変わって面倒なことにならないか?との疑問です。

たしかにちょっとややこしいところではありますので、図を描いて説明します。結論としては、デルタにはならないんですね。

飯田線と中央線の方向

註記:JR東日本のATS-P地上設備は、A線・B線の方向設定をしていないようです。上の図は、方向設定したJR東海の車両が、どっち向きで走るかを示しているものと考えてください。

塩尻付近は線路改良が行なわれたため、ちょっと複雑になっています。中央線は大八回りと呼ばれる辰野経由の旧線ルートほか、塩嶺トンネルによって岡谷~塩尻をショートカットした新線ルートが作られました。この付近の拡大図も付けてみましたが、どちらのルートを通っても、方向が変わることはないようです。

また塩尻駅構内は、中央東線⇔中央西線・篠ノ井線が直通だった配線が、篠ノ井線⇔中央東線・西線に変更された経緯があります。以前のままなら方向が変わったのですが、現在の中央西線⇔篠ノ井線直通ルートでは変わりません

もっとも、塩尻駅には貨物用に東線⇔西線の短絡線が残っていますので、この部分で小さいデルタがあると言えばあります。しかし、大きな問題になることはないでしょうね。


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