先日所用で新城に行き、飯田線を利用したのですが、119系はまだPT使用車がない模様で、PT取り付け工事が完了している車両も含め、使用停止の状態でした。飯田線は今年2月には豊川~小坂井間のPT設置工事を完了していたのですが、373系・313系のわずかな運用列車のみがPT使用のようです。まだ使用開始区間が短く、PT非対応車両も多いためでしょうか。
さて、閑話休題。ATS-PT講座は前回は車上装置に話題を移し、ATS-PT車上装置の基本構造、操作盤のスイッチ(下図)について触れました。今回はその続き、方向切換・A線・B線について取り上げます。
A線・B線と聞いて、東京の地下鉄などで上り・下りの代わりに使われる呼び方を連想される方も多いでしょうが、それはちょっと忘れてください^^;
本講座の第3回地上子の基礎知識で説明しましたが、ATS-P形の地上子は、線路のど真ん中に置いてあります。旧来のS形では、車上子・地上子ともに進行方向左側にオフセットしてあり、進行方向によって使い分けていましたが、P形は進行方向にかかわらず情報を送ることが可能です。
これは、一つの地上子で複数の機能を持たせられるメリットがある一方で、PT形のように無電源地上子を多用する方法の場合面倒なことにもなります。以下の図は、ATS-PT地上子を単線区間に設置した場合の図です。ここへ図の左側から右側へ向け「上り列車」がやってきました。
上りの信号機は進行(青)を現示しており、上り用地上子からも列車の運転を妨げる電文は送信していません。しかし、上りの信号機が進行であるということは、下りの信号は停止(赤)を出していることになります。
本講座第5回で説明したように、PT形に多く用いられる無電源地上子(電文可変タイプ)は、信号の現示に合わせた電文切換しかできません。したがって、下りの信号機につながっている直下地上子は、停止現示に合わせて即時停止電文を送信することになり、これを上り列車が受信すると非常ブレーキがかかってしまうんですね。
これは単線区間ばかりでなく、複線区間でも駅構内など上下両方向の列車が進入する線路があれば問題となります。このため、上り列車は下り列車用の地上子から電文を受信しないよう識別が必要になるわけです。これがA線・B線の方向設定です(下図)。
地上子からの電文には、地上子ごとにA線・B線の固有情報が含まれています。上図のように、車上装置の方向切換をB線に設定しておくと、B線の地上子情報のみを受取り、A線の地上子は無視します。これで情報が錯綜することはなくなります。
では、実際の車上装置でA線・B線がどう設定してあるかを見てみましょう。
路線 | A線 | B線 |
---|---|---|
東海道線 | 熱海方 | 米原方 |
中央線 | 塩尻方 | 名古屋方 |
関西線 | 亀山方 | 名古屋方 |
高山線 太多線 |
富山方 多治見方 |
岐阜方 |
飯田線 | 豊橋方 | 辰野方 |
上り列車をB線で運転したとすると、下り列車はA線で運転することになります。折返すたびに方向設定をしなければならないような気がしますが、実際はそんな操作は必要ありません。
というのも、上り列車で使う運転席と、下り列車で使う運転席は、もともと別だからです。上の図は213系の例ですが、左側のクモハはA線で固定、右側のクハはB線で固定しておけば問題ありません。実際に操作盤の方向切換も、運転席ごとに方向が決まっていて、ピンを刺してレバーが変わらないようにしてあります。
さて、各路線のA線・B線設定を右の表に示します。上り・下りで決めてあるのではなく、別の路線に入っても、方向が変わらないように決めてあります。名古屋駅で言えば金山・八田側がA線で、東海道線は上りがA線、中央・関西線は下りがA線となります。
JR東海(ATS-PT)の方向設定はここまで書いたとおりなのですが、どの会社もA線・B線で切替えているかと言えば、そうではありません。たとえば、JR東日本のATS-Pは、車上装置をすべてA線固定を基本にしてあるようです。
というのも、首都圏のJR東日本の路線は、あちこちにデルタ線(右図)があります。品川・大崎付近や、西船橋から京葉線へ向かうときなど、デルタ線は走り方によって車両の向きを変えてしまいます。このため、A線・B線に頼った識別はしていません。
首都圏のATS-Pは、エンコーダ方式の地上子を採用しています。ATS-PTに見られる無電源地上子とは異なり、連動装置とエンコーダによって複雑な条件に対応できるので、進路条件により特定の地上子を休止させることもできます。つまり、方向設定がなくても問題ないんですね。というわけで、JR東海に直通する列車だけ方向設定をしておけばよい、ということになります。東日本管内では、地上子はA線B線共通情報を送信しており、車上装置はA線・B線どちらにしておいても問題ないようです。
ただ、JR東日本でよくわからないのが、ATS-PNを採用している路線です。ATS-PN形はATS-PTの元となった方法で、無電源地上子を多用する方式です。中央東線や房総各線で使用されていますが、どんな方法で方向問題を解決しているのか、興味深いところです。
JR東日本とは異なり、JR東海にはデルタ線はありません。しかし、乗り入れ先である伊勢鉄道線を考えると、東海エリアにもデルタ線は存在します。四日市・亀山・津を頂点として、関西線・紀勢線・伊勢鉄道線で三角形を構成してしまうんですね(右図)。
では、A線・B線をどの路線を主体に決めるかですが、伊勢鉄道直通ルートを主として決めているようです。四日市から伊勢鉄道で津方面へ直通する列車の運用を考えてのことでしょう。
亀山では関西線と紀勢線でA線・B線が逆転してしまいますが、幸いなことに亀山で両線を直通する列車は現在設定されていません。亀山駅構内のみを、エンコーダによる地上子制御をすることによって、この問題はクリアできるものと思われます。
デルタ線の形成について、コメントで疑問をいただきましたので、東海道線⇔飯田線⇔中央西線はデルタ線になるか? をアップしました
次回は車上子について解説する予定です。