ATS-PT講座第7回目です。前回まで地上子についての解説が続きましたが、今回からは車上装置に話題を移します。
まずATS-PT車上装置のシステム構成を、表に示します。
名称 | 機能 | 設置位置 |
---|---|---|
ATS-PT 車上装置 |
ATS-PT車上装置システムの中枢 情報の入出力・パターンの作成・パターンと速度の監視 パターン超過時のブレーキ指令 |
車両床下 または床置 |
ATS-PT 車上子 |
・地上からのデジタル電文を受信 ・無電源地上子へ電力供給(搬送波) |
床下 |
速度発電機 | 車両の速度・距離を検出し、車上装置へ送る | 台車軸受 |
操作盤 | 車上装置の操作を行うためのスイッチやレバー | 運転室 |
表示灯 | ATS-PTの状態を表示 | 運転台 |
警報 | 運転士への注意喚起 | (スピーカー) |
列車番号 設定器 |
(車上→地上の送信を行う場合にのみ設置) | 運転室 |
基本構成は他社のATS-Pとそれほど変わりません。PTで特有なのは、パターンを超過した場合のブレーキ指令が非常ブレーキしかない点でしょう。他社のATS-P車上装置は、パターンを超過すると常用ブレーキを作動させ、所定の速度まで低下すると、ブレーキが自動的に緩んで運転を継続できます。しかし、ATS-PT形ではいきなり非常ブレーキが作動し、停止するまでブレーキは緩められません。ここは賛否の分かれるところですが、実際の運転でPT形のブレーキが作動したという話はまだ聞いたことがありませんし、それどころか「パターン接近」が点灯することもほとんどなく、それほど問題ではないのかもしれません。
ATS-PT形でもうひとつ特徴的なのは、「車上→地上」の情報伝送がオプション扱いであることです。他社のATS-Pでは、車上から地上への情報伝送も標準的に行なわれており、車両の性能に応じて信号の現示を変えるなんてことも行なわれています。しかし、PT形は無電源地上子を多用している方式のため、地上→車上の一方通行が基本となっています。
ただし、ATS-PTも車上→地上の伝送がないわけではなく、踏切警報定時間制御に応用されているものと考えられます。これは、駅に近い踏切などで「あかずの踏切」を避けるため、列車から地上に列車番号を送り、駅に停車するか通過するかによって、遮断機を下ろすタイミングを変えるものです。JR東海では東海道線でこのシステムを導入しており、ATS-ST形によって列車番号の車上→地上送信を行なっていました。ATS-PT導入にともなって、ST形車上装置は機能を停止していますので、列車番号の送信はPT形車上子から行なわれていると考えられます。
このためでしょうか。東海道線を走る大垣車両区・静岡車両区の313系電車には列車番号設定器が運転席頭上に搭載されていますが、神領車両区の313系にはありません。神領区の車両が、東海道線を走る運用がほとんど設定されていないのは、これが理由かもしれませんね。
確認操作が必要なATS-S形と異なり、ATS-P形は運転中の操作をとくに必要としません。したがって、操作盤自体も運転席から離れています。下の図は211系や311系に搭載されるPTの操作盤ですが、これも助手側に設置されており、乗務の最初に状態をスイッチの状態を確認するだけです。
ATS-Pの機能を停止するスイッチもあることから、あえて離れた位置に設置して、運転中に操作できない方がむしろ安全、との配慮もあるのでしょう。
さて操作盤には、NFB(ブレーカー)タイプのスイッチが3つ、切換レバーが2つ、押しボタンが1つ並んでいます。
NFBスイッチのうち、ATS-P主電源と記録器のスイッチは、誤って切ってしまわないように、透明なカバーが掛けられています。
また、ATS-P開放のレバーは開放位置にすると、操作盤自体の蓋が閉まらないようになっています。レバーの位置を確認しなくても、蓋が閉まり切らないことで、すぐに開放状態(異常)であることに気づくというわけです。ATS-PTの本格使用の前には、多数の車両が開放状態で走っていましたので、半開きになった操作盤に気づいた方も多いと思います。
形状 | 名称 | 機能 | 備考 |
---|---|---|---|
スイッチ (NFB) |
ATS-P | ATS-P主電源 常時ON |
透明カバー付 |
ATS 切換連動 |
JR東海エリアは定位 (ATS-P区間ではST形の機能を自動停止) |
JR西日本(拠点P) 区間で開放 |
|
ATS-P 記録器 |
ATS-P記録器電源 常時ON |
透明カバー付 | |
レバー | 方向切換 | 運転方向の切換 A線⇔B線 |
運転台ごとに固定 |
ATS-P開放 | ATS-PTの機能を開放する | 開放位置では 蓋が閉まらない |
|
ボタン | ATS-P ブレーキ開放 |
ATS-PTのブレーキを1分間停止 |
操作盤のスイッチ類の機能は上の表のとおりですが、説明が必要と思われるスイッチ・レバーに関して、解説を加えます。
ATS切換連動とは、P形の機能オン・オフに連動して、S形の機能を停止や再開が自動的に行なわれることを指します。以前の記事で詳しく述べていますが、ATS-PT形では、
このように、P形が機能するとS形は機能停止、P形が機能停止するとS形は機能を再開し、ATS-PT形は同時に二つのATSが機能しないようになっています。これがATS-切換連動の機能で、JR東日本のATS-Pでも同様に動作します。
しかし、JR西日本のATS-Pはちょっと違い、いわゆる拠点P方式を採用している路線があります。拠点P方式では、出発信号機・場内信号機はP形を設置しているものの、閉塞信号機は一部を除いてP形地上子を設置せず、S形(SW形)で信号防護を行ないます。つまり、P形とS形を併用するため、P区間でもS形の機能が停止しないようにしておく必要があります。
このため、拠点P区間に乗り入れる際に必要となるのが、切換連動の開放スイッチです。JR東海エリアは定位(開放せず)にしておき、JR西日本の拠点Pエリア(米原から西の東海道線など)では、切換連動スイッチを開放にして、P形とS形を併用するモードに切替えます。拠点P区間に乗り入れる大阪発着の「しなの」や「ひだ」は、米原でこのスイッチを操作しているものと思います。
例によって長くなってしまいました。次回も車上装置について、A線B線方向切換について解説します。