先日、所用で四日市に行く用事があり、近鉄名古屋線を利用しました。名古屋駅でJRから近鉄の乗換改札口を使い、TOICAとPiTaPaの2枚重ねタッチで通ろうとしたのですが、乗換改札へ向かう途中、今月から2枚重ねはできなくなった旨の掲示を発見。
「あらま」ということで乗換改札をあきらめ、いったんJRの広小路口改札を出てから、近鉄の改札へ向かいましたが、どうやら近鉄がICOCA定期を導入することに関係しているようです。
近鉄名古屋線は東海地方にありながら、近鉄自体が関西の私鉄であるため、使えるICカード乗車券も、地域性と微妙にずれていました。以下に現在の使用可能なICカード乗車券を示します。
TOICA | PiTaPa | ICOCA | manaca | Suica SUGOCA |
|
---|---|---|---|---|---|
近鉄 | 不可 | 利用可 | 利用可 | 不可 | 不可 |
JR東海 | 利用可 | 不可 | 利用可 | 利用可 | 利用可 |
近鉄は関西私鉄ですから、基本となるカードはPiTaPaです。これにPiTaPaと相互利用可能なJR西日本のICOCAも利用可能カードとして加わりますが、JR東海のTOICA、中京民鉄系のmanacaはいずれも利用できません。
一方、JR東海は基本カードがTOICAです。manacaとは相互利用を開始しましたが、PiTaPaの利用はまだできません。一方で、JR西日本のICOCAはJRつながりで利用できます。
つまり、近鉄とJR東海は自社カードだけで両方を利用することができません。一方、名古屋と直接関係のないJR西日本のICOCAだけが双方利用可能なんですね。
という微妙な状態であるわけです。むろん、名古屋にJR西日本の駅はありませんので、名古屋でICOCAを手軽に買うことはできませんでした。
このような微妙な状況を受けて、これまで名古屋駅のJR・近鉄の乗換改札では、互いの自社カードを尊重する取り扱いを取っていました。つまり、JR東海のTOICAと近鉄のPiTaPaを2枚重ねで通れるようにする、というシステムです。PiTaPaの代わりに、TOICAとICOCAを重ねて通すこともできましたが、双方を利用できるICOCA1枚で通ることはできませんでした。先月(2012年10月)までの状況を以下に示します。
ICカード乗車券の組合せ | 精算対象カード | 乗換改札通過の可否 | |
---|---|---|---|
JR東海 | 近鉄 | ||
TOICA + PiTaPa | TOICA | PiTaPa | 可能(2枚重ね) |
TOICA + ICOCA | TOICA | ICOCA | 可能(2枚重ね) |
Suica + PiTaPa | Suica | PiTaPa | システム的に不可 |
Suica + ICOCA | Suica | ICOCA | 可能?(2枚重ね) |
TOICA単独 | TOICA | 利用不可 | 不可(近鉄利用不可) |
PiTaPa単独 | 利用不可 | PiTaPa | 不可(JR東海利用不可) |
ICOCA+PiTaPa | ICOCA | PiTaPa | 不可(ICOCAは近鉄専用扱い) |
ICOCA単独 | ICOCA | ICOCA | 不可(ICOCAは近鉄専用扱い) |
表にまとめてみると、結構複雑です。TOICA + PiTaPaの2枚重ねがOKなら、その相互利用カードでも自由に通れそうなものですが、必ずしもそうではありませんでした。まず、Suica + PiTaPaはシステム上、2枚重ねができないのだそうです。
さらに、ICOCA + PiTaPaも不可です。名古屋駅の近鉄・JR乗換改札口を通る場合、ICOCAはJR東海の精算には使えず、近鉄の精算にしか使えないというロジックが存在したためです。同様の理由で、ICOCA単独も乗換改札口を通れませんでした。
ところが、冒頭で書いたように今月(2012年11月)から、乗換改札のシステムが変わりました。まとめると以下のとおりで、2枚重ねを一切廃止。逆にこれまで不可能だったICOCA単独が、乗換改札をICカードだけで通れる唯一の方法となりました(切符との併用は他のカードでも可能です)。
ICカード乗車券の組合せ | 精算対象カード | 乗換改札通過の可否 | |
---|---|---|---|
JR東海 | 近鉄 | ||
TOICA + PiTaPa | TOICA | PiTaPa | 不可(2枚重ね不可) |
TOICA + ICOCA | TOICA | ICOCA | 不可(2枚重ね不可) |
Suica + PiTaPa | Suica | PiTaPa | システム的に不可 |
Suica + ICOCA | Suica | ICOCA | 不可(2枚重ね不可) |
TOICA単独 | TOICA | 利用不可 | 不可(近鉄利用不可) |
PiTaPa単独 | 利用不可 | PiTaPa | 不可(JR東海利用不可) |
ICOCA+PiTaPa | ICOCA | PiTaPa | 不可(2枚重ね不可) |
ICOCA単独 | ICOCA | ICOCA | 可能 |
ごらんのように、PiTaPa・TOICAの利便性を下げ、ICOCAの利便性を上げた形になっています。近鉄では、来月(12月)よりICOCAの発売・ICOCA定期の導入を始めることになっており、名実ともにICOCAが近鉄のスタンダードとなるようです。
近鉄をはじめとする関西私鉄が導入しているPiTaPaは、ポストペイという珍しい方式を採用しています。他のICカード乗車券のように前もってチャージをして使うのではなく、使った料金の請求が後から来る「後払い方式」なんですね。
ポストペイのPiTaPaには、メリットもたくさんあります。まず鉄道事業者は、チャージが不要ですから、チャージをする設備を各駅に置く必要がありません。また、PiTaPaを手に入れるにはクレジットカード同様に信販会社を経由するため、各駅でカードを販売する設備も不要です。導入する鉄道会社にとって、設備更新コストを抑えられるのは大きな魅力でした。
利用者にとっても、ポストペイの利点を発揮した各種割引制度が存在します。チャージ方式と異なり、その場で決済をしないので利用状況に応じて請求額が決められます。大阪市営地下鉄のマイスタイルはその最たるもので、1ヶ月の利用状況に応じて定期券相当か回数券相当か、安い方の請求が来るようになっています。また、実際に口座から引き落とされるのが乗車の2ヶ月後ぐらいですから、手元に当座のお金が残り「キャッシュフローがよい」と言う人もいます。
しかし、デメリットが多いのも事実です。利用者もPiTaPaを持ってさえいれば、いろいろ恩恵にあずかれるのですが、手に入れるのが面倒なんですね。後払い方式PiTaPaは信用取引ですから、信販会社による審査があります。申込書に年収や家族構成、勤務先の規模や売上高を記入し、引き落とし口座を指定。本人確認のため、公共料金の領収書なども添付したりと、とにかく面倒です。郵送した後、審査して発行となるのですが、手元に届くまでに1ヶ月近くかかるんですね。
となると、就職や転勤して通勤にPiTaPaを使おうと思っても、すぐには使えないことになります。この敷居の高さにより、PiTaPaの発行枚数は200万枚程度にとどまっており、後発のmanacaにさえ抜かれそうな気配です。このため、関西私鉄のICカード化は遅々として進みませんでした。とくに定期利用者の磁気券使用率はずっと高いままです。
そこで、近鉄や京阪は、利用者が伸び悩むPiTaPaに見切りを付け(やめるわけではありませんが)、ICOCA定期券を導入することにしました。JR西日本との連絡定期券だけでなく、私鉄だけの定期券をICOCAで作れる点、さらにICOCAそのものを私鉄が発売する点が、他の地域と趣を異にするところです。ライバルであるJR西日本に白旗を揚げた形ですね。この決断には時間がかかったと思います。
さらに、近鉄では自社カードと一体になったKIPS ICOCAカードも新たに発売。着々とICOCA本格導入の準備が進んでいます。
導入するのがICOCA定期ですので、名古屋地区における連絡定期券はまだですが、PiTaPaの足かせが取れたことで、JR東海や名古屋市交通局・名鉄との連絡定期券も実現の可能性が増してきました。
追記です。全国の主要ICカード10種の相互利用が2013年3月23日より開始となるのに合わせ、JR東海と近鉄の連絡定期券が発売となるようです。
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