JR東海が導入を進めていた速度パターン照査方式の自動列車停止装置ATS-PTについて、この1年(2012年)の動きを追ってみました。
今年2月に全線(バス代行区間を除く)での工事を完了し、JR東海のATSはすべてP形に切り換えられました。その後、9月頃には米原付近のS形混在区間も解消した模様で、11月に入ると旧来のST形地上子の撤去も本格化しているようです。
では、順に解説していきます。
JR東海は今年の2月、下の図に示すように、すべての路線をATS-PTに切り換えました。図には示してありませんが、あおなみ線も現在はATS-PTが導入されています。
名松線もバス代行区間である家城~伊勢奥津間は未施工ですが、運行中の松阪~家城間はATS-PTとなり、家城駅構内にはしっかりPT形の地上子が配置されています。この区間、いまだ非自動閉塞方式であり、信号機こそ色灯式になりましたが、票券閉塞式(タブレットを受け渡す)のままATS-P化された全国的にも希な区間です。
さてATS-PTは、S形を併用する拠点P形ではなく、すべてP形で防護する全線P形です(たまに、ATS-PTは拠点Pと書いているサイトがありますが、昔の憶測がそのまま残っているだけで誤りです)。S形を併用しないので、「じりりりーん!きんこんきんこん…」というけたたましいS形の警報音を、JR東海で聞くことはなくなりました。ただ、エンド交換時にはST形が立ち上がるので、そのときに試験鳴動がありますが、走り始めるとすぐにP形に切り替わるため、JR東海の路線で運転中にS形の警報音が鳴ることはありません。
しかしながら、他社との境界駅が他社管轄である場合は、ATSも相手先のシステムに依存します。図に境界駅が示してありますが、JR東海とJR他社の境界駅は、亀山駅を除き、すべて他社管轄です。このため、境界を越えた時点で、S形に切り替わることがあります。
路線 | 境界駅 | 管轄会社 | ATS方式 |
---|---|---|---|
東海道線 | 熱海 | JR東日本 | P形 |
米原 | JR西日本 | P形 | |
中央線 | 塩尻 | JR東日本 | P形 |
関西線 | 亀山 | JR東海 | PT形 |
高山線 | 猪谷 | JR西日本 | Sw形 |
紀勢線 | 新宮 | JR西日本 | Sw形 |
飯田線 | 辰野 | JR東日本 | SN形 |
身延線 | 甲府 | JR東日本 | P形 |
御殿場線 | 国府津 | JR東日本 | P形 |
上の表に示すように、猪谷・新宮・辰野の各駅については、管轄会社がS形を使用しているため、駅到着前にS形に切り替わり、S形の警報音が鳴ることになります。
また、境界駅として唯一JR東海管轄の亀山駅はもちろんPT形なのですが、加茂方面からJR西日本の関西線列車はS形を使用しているようです。東海の車両はP形、西日本の車両はSw形を使うというわけです。このほか、亀山駅はATS-PのA線・B線が混在しており、ちょっと複雑な保安形態となっています。
このほか、飯田線の豊橋~小坂井(平井信号場)間は名鉄との共用区間ですが、JRの列車のみATS-Pを使用し、名鉄の列車は従来どおりM式ATSを使用しています。
JR東海に乗り入れる第三セクターについてですが、伊勢鉄道・愛知環状鉄道ともに、基本はATS-ST形を使用しています。しかし、運用方法は各社で差があります。
伊勢鉄道は、四日市~河原田間および津駅構内に関して、JR東海に乗り入れる形を取っています。このため、伊勢鉄道の列車は、伊勢鉄道線内ではST形ですが、JR東海に乗り入れる区間はPT形に切り替わります。
一方、愛知環状鉄道もJR東海の高蔵寺・岡崎両駅に乗り入れるのですが、この線路が愛知環状鉄道専用となっているため、愛環の列車はST形しか使いません。ただし、愛環の車両も、検査をJR東海に委託しているため、検査回送等でJR東海線内を走ることがあり、PT形の車上装置を装備しています。
下の図は、東海道線全線でATS-PTの使用を開始した2011年2月末ごろの状況図です。JR西日本との境界である米原駅付近では、P形がいったんS形に切り替わり、しばらくしてまたP形に戻る変則的な運用がなされていました。
西日本の東海道線が拠点P形を採用しているためか、西日本と東海のシステムに不整合があったためか、詳細はわかりませんが、この状況が約1年半ほど続いていました。
ところが、今年の9月末頃から、S形に切り替わることがなくなったようで、米原駅発着のJR東海の列車はずっとP形のまま運行するようになりました。調べてみると、ちょうどこの時期、JR西日本が米原~長浜間にATS-P(拠点P形)を整備した模様で、これに合わせて東海道線のATS機器構成も見直したようですね。
さて、最新情報です。先週、ふと気付いたのですが、春日井から新守山にかけての中央線で、ATS-ST形の地上子がほとんど見あたらないのです。たしかにあったはずなんですが…。
ST形の地上子には主として、以下の3種類があります。
地上子 | 機能 |
---|---|
ロング地上子 | 次の信号機が停止現示のときに機能。運転席に警報を鳴らし、確認動作を要求。 |
直下地上子 | 信号機直下に設置。停止現示のときは即非常ブレーキを作動。 絶対信号機(出発・場内)や場内相当の閉塞信号機に設置。 |
速度照査地上子 | 2つの地上子間を通過する時間を計測し、速すぎると非常ブレーキ作動。 |
ST形地上子の設置数はP形に比べると少ないのですが、比較的多いのが速度照査地上子です。ST形の速度照査は、2点間の通過時間を計るという方式なので、ピンポイントの速度照査しかできません。ですから、パターン速度照査に近いことをやろうとすると、何組もの地上子を並べる必要があります。JR東海の場合、過去に出発信号機の冒進で何度が事故を起こしているので、とりわけ出発信号機付近にたくさんの速度照査地上子が並んでいました(下図)。
ATS-ST形の地上子配置(出発信号機・場内信号機) |
さらに今週に入ると、新守山や大曽根に大量にあった出発信号機付近の速度照査ST形地上子が、きれいになくなっています。その他のロング地上子や直下地上子も続々と撤去されています。ただし、出発信号機の直下地上子だけはあえて残しているようにも見えます。これだけは残しておくのかもしれません。
これまでも名古屋駅構内で、使わないST形の地上子にカバーをかけているのは見かけましたが、本格的な地上子の撤去は、私の知る限り初めてです。なお、ATS-ST形については、くりこうさんのページが詳しいです。