前回に引き続き、鉄道技士試験に関する話題です。
「え~。またかよ」と思われる方もあるでしょうが、今回の問題はここのブログにちょうどいいテーマ?を選んでみたものです。
さて、鉄道技士試験は鉄道総研が平成8年から実施しているもので、鉄道土木・鉄道電気・鉄道車両の三つの専門分野に分かれています。前回の模擬試験問題は分野を問わない共通試験からのものでしたが、実際の過去問と解答(答えのみ)は以下でごらんになれます。
では、平成23年度の鉄道車両・専門試験Iの中から、一問だけ引用します。
問40
20‰の勾配を、抑速回生ブレーキにより72[km/h]で下っている電車がある。この電車は質量38[t]の電動車1両と質量28[t]の付随車1両で編成されている。なお、回転慣性、走行抵抗、電動機効率、歯車効率、主回路損失は無視するものとし、ブレーキ変化時の追随性やジャークによる影響は無視するものとする。また、勾配の角度θ[rad]については、θ≒tanθ≒sinθが成り立ち、重力加速度g=10m/s2とする。
- 抑速回生ブレーキ中の架線電圧が1,650[V]一定の場合、架線への回生電流は( 1 )Aである。
- (以下省略)
設問は全部で5問あるのですが、あんまり書くと引用の範囲を超えそうなので、1問だけにしておきます。なお、右の図は私のオリジナルです。
さて、この問題がなぜこのブログと関連するのか、それはこの車両構成が213系とよく似ているからです。1M1Tの2両編成で、抑速回生ブレーキを備え、車両の質量(M車38t,T車28t)も座席が8割方埋まった213系と近いんですね。しかも20パーミルの下りで抑速ブレーキをかける、現在運用中の飯田線を思わせます。
というわけで、213系が抑速ブレーキをかけると、架線にはどれぐらいの電流が戻るのか、この問題を例に考察しようというわけです。
高校レベルの力学を覚えている人には、それほど難しくないかもしれません。なお、問題文にあるsinやtanの下りは、sinθ=tanθ=20/1000と考えていいよ、という意味です。力学的にはsinを使うのが正しいのですが、θが小さい場合、tanθとsinθ(さらに言えばθradも)は近似できるので、tanθ(つまりはパーミル)をそのまま使うのが通例です。
では回答編です。
問題の解き方ですが、以下の手順になります。
右に図を描きました。昔、理科の授業でやりましたよね(笑)。いわゆる斜面の問題で、摩擦で滑らないための条件は?などの設問がついて回りました。
今回の問題では摩擦はありませんが、代わりに抑速ブレーキをかけます。抑速ブレーキは速度を変えないことが条件です。速度が変わらないことは、この物体(車両)にかかる力が釣り合っていることを意味します。つまり、車両が重力によって滑り降りようとする力(図中の黒い矢印)と大きさが等しくなるように、ブレーキ力Fを決めてやればいいんですね。
さて、この車両には重力mgが作用します。mは質量(=38+28t)、gは重力加速度(=10m/s2)です。さらに斜面上に置くと、滑り降りようとする力として、mg・sinθが分力として現れます。三角関数が出てきて、拒否反応を示した方もあるかもしれませんが、ご安心ください。問題にあるように、sinθ=tanθ=勾配としてよいと書かれていますので、単純にmgi (i=20/1000)と置き換えることができます。したがって、ブレーキ力Fは、
このように求まりました。質量を10倍して勾配を掛ける、意外に単純です。さらに言えば、力をtで求めるなら、10倍する必要もありません。
ブレーキ出力とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、加速するときと同様に、力をかけて速度を変化させれば、出力がついて回ります。
では、出力とはなんぞや?という話になるのですが、これは仕事(kJ)を時間で割ったものと考えてください。出力が大きければ、短い時間で同じ仕事ができます。同じ速度を得るには、出力をたくさん出した方が、早く目標速度に到達します(=加速が速い)。
さて、仕事と言えば、以下の式で表せます。
仕事(kJ)を時間(s)で割れば出力(kW)になるのですから、式の右辺も時間で割ってやりましょう。力を時間で割るというのは意味がわかりませんから(笑)、距離(m)を時間(s)で割って、速度(m/s)にしてやります。
これで式ができました。力 Fは先ほど求めた13.2kN。速度は問題に72km/hとありますので、3.6で割って秒速に直します。
と、ブレーキ出力が求まりました。
213系は定格120kWのモーターを4つ積んでいますので、編成定格出力が480kWです。おおむね定格の半分ぐらいのブレーキ出力になります。一般に電車は定格の1.4~1.5倍の出力を使うと言われていますので、それを考えるとフルで力行しているときの約40%ぐらいと言えます。
というわけで、抑速ブレーキの回生電力を知ろうと思ったら、
- 回生電力(kW)
- = 編成質量(t) × 10 × 勾配(‰) / 1000 × 速度(km/h) / 3.6
- = 編成質量(t) × 勾配(‰) × 速度(km/h) / 360
おおまかには、こんな式で簡単に出せるってことですね。たとえば、編成質量400t・10パーミル・90km/hで抑速ブレーキなら、400×10×90 / 360 = 1000kWが簡単に出ます。役に立つかはわかりませんが(笑)
これは簡単です。電力=電圧×電流ですから、回生電力(kW)を架線電圧(=1.65kV)で割ってやれば、回生電流が求まります。
と最終的な答えが出ました。