前回の鉄道設計技士に挑戦 問題編は、みなさん、できましたでしょうか?では、解答編といきましょう。
なお、この問題に関しては、正答しか載っておらず、解説がありませんでしたので、私の勝手な解説を付けてあります(笑)。
- 鉄道車両を電気で駆動する方式が実用化されて以来、主電動機には速度制御が容易な直流電動機が使用されてきた。その速度制御は、抵抗の短絡や電動機の直・並列制御などにより行われる。
正解は○です。
モーター(電動機)は、発電機と基本構造が同じなので、モーターを回すと発電する作用が現れます。これはモーターにかけた電圧と逆方向に生じるので、逆起電力と呼びます。つまり、モーターを回すと、モーター内部では「モーターを回すまい」とする力が出てくるんですね。
この逆起電力は回転速度に比例します。つまり、速度が低いときは小さいけれど、速度が上がるにしたがって大きくなっていきます。逆起電力が大きくなると、電流が流れにくくなり、モーターのトルク(力)が落ちます。トルクを落とさないようにするためには、逆起電力に負けないだけの電圧をかけてやる必要があり、このため電動機には速度に応じて電圧を上げる仕組みが必要となるんですね。
そのもっとも簡単な方法が、抵抗器を電動機と直列に並べ、速度に応じて抵抗を短絡していくことで、モーターの電圧を制御する抵抗制御や、モーターの直列・並列を切り換える直並列制御になります。
現在はインバータによる交流モーター制御が一般的ですが、直流モーターを抵抗制御する方法は長らく続きました。
- チョッパ制御は、架線からの直流電流を半導体素子により高速でオン・オフし、そのオンとオフの時間を制御することによで平均としてモータに流れる交流電流の大きさを変える制御方式である。
正解は×です。
変換装置 | 入力 | 出力 |
---|---|---|
チョッパ装置 DC-DCコンバータ |
直流 | 直流 |
位相制御 サイリスタブリッジ |
交流 | 直流/ 交流 |
インバータ | 直流 | 交流 |
コンバータ | 交流 | 直流 |
いわゆる電機子チョッパ制御に関する問題です。1番の解説で書いたとおり、モーターの制御には速度に応じて電圧を変える仕組みが必要です。チョッパ制御は、直流電流を高速でスイッチオン・オフし、オンの時間の長さにより平均電圧を制御するPWM制御。電圧を無段階で制御できることから、乗り心地もよく、空転を起こしにくい制御方法です。
さて、問題文で誤っているのは「モーターに流れる交流電流」という箇所。チョッパ制御は、直流電流を入力し、直流電流を出力します。モーターに流れるのは直流電流です。
- インバータ制御は、架線からの電力を、インバータ装置の半導体スイッチを組み合わせてオン・オフすることで、三相交流の電圧と周波数を制御し、交流モータを回転させる速度制御方式である。
正解は○です。
インバータ制御は、保守が容易で小型・高出力の交流モーターを、速度が変化する電車の制御に応用した方法です。
交流モーター、とりわけ三相かご形誘導電動機は、構造がきわめてシンプル。固定子に三相交流を流すと、回転子に誘導電流が勝手に生じるので、回転子に電気を送るブラシや整流子が必要ありません。このため、小型化・高速化が可能で、メンテナンスも楽ちんです。
しかし、交流モーターを制御するには、電圧だけでなく、速度に応じた周波数の制御も必要でした。昔はこんな方法はなかったので、三相かご形が使えなかったんですね。ところが、パワーエレクトロニクスの発展により、電圧だけでなく周波数も自由に変えられるインバータが開発され、交流モーターも使えるようになりました。
インバータの仕組みは、問題文にあるとおり。基本はチョッパと同じPWM制御です。これを三相分用意し、交流を作るため電流の流れる方向も反転できるスイッチング回路となっています。
- 交流電車、直流電車ともに交流電動機を使用した電車があるが、交流電車は、架線の交流を変圧器で変圧し、そのままインバータにより電動機を制御するので、架線の直流を交流に変換する直流電車よりも主回路機器が少ない。
正解は×です。
一見正しいように見えますが、架線を流れる交流は単相交流で周波数も50Hzまたは60Hzと固定です。一方、モーターが必要とするのは、三相交流で、速度に応じ電圧と周波数が変わる電流なんですね。これは、交流とはいっても、まったくの別物です。
さらに、三相交流を出力するインバータの入力電源は直流であることが求められます。このため、インバータによる交流電気車は
このようにインバータに入る前に、コンバータで交流を直流に直してやる必要があります。また、交流電化の電圧は一般に高いので、変圧器で適正な電圧にいったん落とします。したがって、主回路機器は直流車に比べて多くなります。
直流モーターの時代には、交流電気車も変圧器のタップ制御や連続位相制御など、交流にしかできない電圧制御を行っていました。しかし、インバータ車の場合はあくまで直流車がベースで、交流電車と言っても、構造自体は交直流電車に近いんですね。
なお、交流を直接変換するサイクロコンバータなるものもありますが、周波数の制御範囲に制約があり、速度制御範囲の広い電車には不向きです。
- VVVFインバータ装置では、直流モータで行っている主抵抗器の抵抗値を変える方式よりも、車輪の空転や滑走が発生しにくいという特徴がある。
正解は○です。理由は大きく分けて二つ。
一つは、抵抗制御の電圧制御は、段階制御であるということ。抵抗の短絡時にはどうしても電流の急変・トルクの急変が起こります。これに対し、インバータ制御は電圧・周波数の制御が無段階で連続的です。このため、粘着力いっぱいのトルクを出しながら速度を上げていくことが可能です。
もうひとつの理由は、空転が起こったときの挙動です。インバータ制御では、モーターが空転を起こしても、そのモーターのトルクが低下しすぐに再粘着する優れた特性があるんですね。
誘導モーターのトルクは、モーターの回転数と周波数の差、すべりに依存します。モーターが回る速度より、流す電流の周波数を少し早くしてあるんですね。この差をすべりと言いますが、すべりによって回転子に誘導電流が流れて、誘導モーターはトルクは出るというわけです。誘導モーターが空転するとすべりが小さくなりますから、回転子の誘導電流が減ってトルクが小さくなります。トルクが小さくなれば、空転はすぐに収まるというわけです。
一方の直流モーターはそういう特性がないのかと言えば、そうではありません。直流モーターも回転数が上がると逆起電力が増加して、電流が減りトルクが低下します。ですから、モーターそのものは空転が収まりやすい特性を持っています。問題は、抵抗制御であることです。
抵抗制御は、モーターと抵抗器を直列につなぎます。起動時はモーター同士も直列につながっています。ここで一つのモーターが空転したとします。空転したモーターは逆起電力が増加して、見かけの抵抗値が増加します。もし、モーターが並列なら、抵抗が大きくなったモーターは電流が減るのですが、直列の場合は逆です。抵抗値の上がったモーターに電圧がたくさんかかり、電流も減りません。結果、トルクが低下しないので、モーターの空転は収まらないことになるんですね。
というわけで、空転を起こしやすい原因は直列回路であることです。直流モーターを使っていても、交流電気機関車はモーターが並列ですので、大空転を起こしにくい特性を持っています。
長くなりましたので、2問目は次回にしますね。