ATS-PT講座の第12回目。今回は最近行われた小改良についてお知らせします。
お気づきの方もあるかもしれませんが、今年に入って、場内信号機の手前などに、右に示すような標識が設置されたところがあります。実はこれ、ATS-PTの弱点を補うものなんですね。
さて、このブログでは、ATS-PTの構造上の弱点・問題点は、以下に集約されるとしてきました。
通常の運転ではさほど問題がないものの、信号が上位変化したとき(赤から黄色に変わったときなど)、この二つによって円滑な運転が妨げられることです。詳細は以下の記事で解説しています。
第9回では問題点の整理。第10回では、赤信号(停止現示)で停止したときの運転扱いにおける問題点と、一部の駅で実施された解決策について説明しました。
今回お知らせするのは、赤信号で停止する前に、信号が上位変化したときの改良についてです。
当講座の第5回・第6回で詳しく説明していますが、ATS-Pの信号防護用地上子には、ロング・直下・消去用の3種類があります。P型はパターンによる連続制御ですから、ロング地上子1個あればパターンの生成は問題ありません。
一方、下の図に示すように、信号が途中で上位変化(赤から黄色や青になる)したときは消去用地上子が効力を発揮します。この地上子が不要となったパターンを消去(更新)し、この働きによって、再加速を可能にしたり、無駄なパターンで減速を強いられることから解放されるわけですね。
ところが、ATS-PTでは問題が一つ生じます。それは、パターンの更新が運転士に伝えられないということです。音もなければ、表示もありません。せっかくパターンが更新されても、運転士に伝わらなければ意味がありません。結局、運転士はあるはずのないパターンに縛られることになります。
この状況がわかる動画がyoutubeに上がっていましたので、これで実際の走行風景を見てみましょう。この動画は、飯田線下り特急伊那路の前面展望。問題の箇所は15:00付近、新城駅に入っていくところです
動画時刻の15:03あたりで、注意現示の遠方信号機を通過します。遠方が注意ですから、場内は停止です。そして15:40ぐらいで消去用地上子を通過するのですが、このときすでに場内信号機は進行現示に変化しています。しかし、運転士はパターンの更新を知り得ずないはずのパターンを警戒して、場内信号機の手前50mでは10km/h以下で走行しているのが確認できます。消去用地上子通過(15:40)から場内信号機通過(16:55)までの210mを走るのに1分以上かかっています。
さきほどの図では、消去用地上子は信号機手前210m(TR-210)の一箇所ですが、列車密度の高いところでは円滑な運転を考慮して、85m手前・400m手前などにも増設されています。しかし、運転士がパターン更新を知り得なければ、宝の持ち腐れ。せっかくの地上子増設も意味をなさない状態が続いていました。
パターンの更新を運転士が知る方法として、車上装置が通知する以外に、地上子の通過を確認するという方法もあります。しかし、運転士も地上子ばかり気にして運転するわけにもいきませんし、何より地上子自体が見えにくいです。レールの間にあるので粉塵で汚れていますし、ライトで反射もしないので夜間の視認も困難です。
そこで、最近取られた方法が、消去用地上子位置に標識を設置するというものです。以下の図は、中央線下り春日井駅場内信号機に関する地上子配置で、ロング・直下のほか、消去用地上子が3箇所(TR-85/210/400)設けられています(このほか分岐器用地上子がありますが、ここでは省略しています)。
この図で目を引くのが、[ATS-P/TR]という標識です。この記事の冒頭に拡大図がありますが、これをTR-210地上子付近に新設しています。この標識を通過することで、運転士はパターン更新を明確に知ることができるというわけです。欲を言えば、TR-400地上子にもほしいところですが、とりあえずはこれで様子を見ようということでしょうか。
また、TR-85手前に右のような標識が追加されています。力行標とよく似ていますが、これは場内信号機で停止するときの停止目標です。通常の取り扱いでは、信号機の手前50mで停止することになっているのですが、信号機が上位変化して発車した後、すぐにパターンが更新されるよう、TR-85地上子の直前に停止位置を移したものです。以下の記事で詳しくお知らせしたものと同じです。
ただし、春日井駅に設置されたものは、やや見えにくかった枕木上の表示から、視認性の高い反射式の標識に変更されているのが特徴です。TRとも書かれており、地上子通過の標識も兼ねているようです。